FAB 3D CONTEST 2018
審査結果報告
最優秀賞
Formula Fish 【魚森 稜也】
優秀賞
作れるかな?消しかすクリーナー! 【平野 晴己・ 平野 喬久】
触れんど!ボックス 【村田 飛翔】
リボーン(ReBone) 【清水 大輔】
Cactify ~ 植物と話して笑顔になろう 〜【佐藤 怜】
Formula Fish 【魚森 稜也】
特別賞
ラメピンクのガチャガチャ【鳥越 優希】
ウミガメの足跡を見分けるための3Dモデル【釜 葉音】
サイズのオーダーメイドができる、ちょっとした棚【鈴木 岳人】
バランチボックス【加藤 陸】
suspenzer (サスペンザー)【星野 圭祐】
water mechanics【小野 侑誠】
肉球スイッチ 〜叩けばわかる楽しい気持ち〜【伊藤 彰】
Hi!タッチマン【チーム “ Hi! touch ”】
金野尾岬、山口紗弥、田添奏、大塚初花
ワールドチャレンジ号【最上 敦】
丸投げ【矢嶋 宏二】
ファブ施設賞
Fablab Shinagawa
ダイナミックラボ
教育ファブ機関賞
希望が丘学園 鳳凰高等学校
ローラスインターナショナルスクール オブ サイエンス
カテゴリー1:夏休みの自由研究
応募総数:23件
審査委員長講評:小檜山賢二
慶應義塾大学 名誉教授
カテゴリー1では、3Dプリンタで作成したもの自体より、作成の意図や制作過程を重視(・テーマを選んだ理由 30% ・研究の過程 (プロセス記録 / 観察 / 工夫) 50% ・完成作品 20%)して審査します。これは、小学生に皆さんに研究開発における基本的な方法を身につけていただくことを目的にしています。
カテゴリー2:暮らしの自由研究
応募総数:49件
カテゴリー2 優秀賞
触れんど!ボックス
講評
安価で容易に作ることを意識し、3Dプリンタのみならず、MESHやIFFFTなど いくつかのツールを組み合わせてアイデアを実現しており、このアイデアが起点となって より多くの人に共有、カスタマイズされて欲しいという作り手の想いが伝わってきました 3Dプリンタが本当の意味で普及した時の事にはこのような作品、アイデアが共有され それぞれの人がカスタマイズしていくのだろうなと感じます その意味で、作品を通じてより多くの人が家族のような関係で繋がっていくという 今年のコンセプトに最もマッチした作品と評価しました
福岡県 北九州工業高等専門学校 専攻科 1年
村田 飛翔
審査委員長講評:佐藤明伸
オリンパス株式会社 画像システム開発1部
審査を通じて今年は2つ気づきがありました。 1つ目は、3Dプリンタを使ったアイデアの領域拡大です。今年は環境問題、災害対応、知育、アートなど 昨年にはなかった視点の作品の応募がありました。 もう一つは、緩やかですが、より多くの人に自分でモノをつくる事が浸透してきた事を感じました。 まだ局地的かもしれませんが学校やFab施設などこの流れを後押しする場が増えてきていることが要因の一つかもしれません 審査は、暮らしの中の小さな気づきがどのように製作の熱意にかわり、そしてその熱意や作品が より多くの人へ共有され家族のような関係を構築できるか、という着眼点とストーリー性を重視しました。
カテゴリー3:FAB甲子園
応募総数:11件
カテゴリー3 優秀賞
リボーン(ReBone)
講評
リボーン(ReBone)は、3Dファブ技術でリコーダーとトロンボーンを掛け合わせ、既存
の楽器を新たな楽器へとリボーン(Reborn)させた優秀賞受賞作品です。アイデアの創出
プロセス、リコーダーの構造解析、発音機構の流体力学解析、ジョイント部や変音部の作
成プロセス等、全ての項目で優秀さが認められ、全ての審査員から高得点を得ました。
“I liked the simple but creative elegance of this one, using 3D printing to fuse traditional instruments into a new and FABulous sound.”等のコメントを得て、ファブ技術で創造的かつエレガントに伝統楽器の機能を昇華させた点が高く評価されました。
東京都 工学院大学附属中学校 3年
清水 大輔
カテゴリー3 特別賞
suspenzer (サスペンザー)
講評
サスペンザー(Suspenzer)は、「車のサスペンション構造にヒントを得て新たなシンセ
サイザーを創る」というユニークな発想が高く評価されました。演奏ビデオにとてもイン
パクトがあり、思わず「FABulous!」という言葉を口にしてしまう程でした。
審査員からも“This sounded FABulous to me, and was a clever and creative use of FAB 3D technology in an unexpected way.” というコメントを得る等、文字通りファブ技術でアッと驚く「FABulous」な音の楽しみ方を提案した点が高く評価されました。
東京都 工学院大学附属中学校 3年
星野 圭祐
カテゴリー3 特別賞
water mechanics
講評
ウォーターメカニクス(water mechanics)は、「鹿威し」の仕組みにヒントを得て作成
されたユニークな作品です。物体の構造と物理、発音とリズム生成の関係性について考え
させてくれる秀逸な作品でした。実演動画を眺めていると、我々の祖先もこうやって音を
楽しんでいたのではないかと、思わず人類の音楽の起源が想起されるようでした。
審査員からは“Very creative combination of modern technology with traditional design to create a unique new sound.” というコメントを得る等、現代の3Dファブ技術と伝統デザインを融合してユニークな新サウンドを創造した点が高く評価されました。
福岡県 博多中学校 2年
小野 侑誠
審査委員長講評:藤井進也
慶應義塾大学 環境情報学部 専任講師
2018年のカテゴリー3「FAB甲子園」のテーマは「Sounds FABulous!」でした。
FABrication(ものづくり)で FABulous な(素晴らしい、とても愉快な、楽しい、あっと驚くような) サウンドをクリエイトするアイデアや作品、パフォーマンスなどを幅広く募集しました。3Dファブ技術が効果的に使われているかどうか、奏でられた音が「FABulous!」かどうか、作品の見た目が「FABulous!」かどうか、試行錯誤や失敗も含め、思考や制作のプロセスが詳しく書かれているかどうか等の観点から、3名の審査員による国際的な審査が行われました。甲乙つけがたい優秀な作品が多数応募され、審査プロセスは白熱(炎上?)しました。
カテゴリー4:IoT×FAB
応募総数:15件
カテゴリー4 特別賞
Hi!タッチマン
講評
離れて暮らす人々をハイタッチで繋ぐことで笑顔にするというアイデアをある程度実装できている。IFTTTなどのウェブサービスを活用すればあと少しでできると思われるインターネット経由のコミュニケーションまで実装し、短期間でもいいので実際に試すまでに至っていない点は残念。しかしながら、グループでアイデアを創出し、フィードバックを受けながら繰り返しつくり、最終的な作品に至るまでのプロセスが詳細に示されていることにより、IoTやファブに距離感を感じている同年代の人々からの共感が期待できる。
福岡県 福岡雙葉高等学校 2年
チーム “ Hi! touch ”
金野尾岬、山口紗弥、田添奏、大塚初花
審査委員長講評:小林 茂
情報科学芸術大学院大学[IAMAS]産業文化研究センター 教授
まず、IoTとファブにより、これまでは繋がりきれなかったものを繋げつつ、単に効率化や最適化に留まらないアイデアを実装できており、かつ再現性に配慮したドキュメントが伴う作品を入賞作品の候補として選んだ。その上で、つくった時点で終わるのでなく、実際に使ってみてどうだったかまで確認できている点を重視して優秀賞を選んだ。IoTにおいては、継続的に使いながらアイデアを発展させていくことが重要になる。今後取り組もうとする人々も、実際に試すことを重視して欲しい。
カテゴリー5:デザインエンジニアリング
応募総数:8件
審査委員長講評:原 雄司
株式会社デジネル 株式会社デジタルアルティザン 株式会社EXTRABOLD 代表取締役
「生卵を3Dプリンターで作った容器に入れて、高いところから落としても割れなかった人が勝ち!」という単純明快なルールでしたが、建物の関係で計測可能な高さが17.5mとなっため、今回からは落下速度と着弾点(的)の精度をルールに明記しました。3Dプリンターの特性を活かした高度な設計力と競技性の求められるわかりやすいコンテストです。
ファブ施設賞
講評:越智岳人
編集者・ライター/DMM.make AKIBAプロデューサー
応募数と応募内容、加えてスペースならではの特徴があるかも審査の基準に含めました。 今年は応募者の年齢・バックグラウンドの多様性は維持しながら、離れた土地に住んでいるユーザーへのサポートをしている施設がいくつかあったことに驚きました。 大規模なメイカースペースでも物理的な制約から、どうしても自分たちの拠点に来る人へのサポートになりがちな中、こうした取り組みがコンテストを通じて生まれていることは非常に意義のあることだと思います。
講評:中澤未来
ファブラボ太宰府 ファブマスター
去年一昨年と応募者側として携わっていた身として何度も「何ができるだろう」と、応募者に対する「協力」の度合いについて悩んできました。今回は、応募者自身の持つアイデアと好奇心を尊重していること、高いレベルを目指せる技術アドバイスができること、その施設の地域で新規ユーザーをどう巻き込んでいるか、といった点で審査しました。最後の「巻き込み力」に関しては、Fablab Shinagawaさんが圧倒的だったかなと思います。
教育ファブ機関賞
講評:田中浩也
ファブ3Dコンテスト2018 実行委員長
慶應義塾大学 SFC研究所 ファブ地球社会コンソーシアム 代表理事
教育機関におけるファブは一過性のものではなく、持続的に積み上げられていく必要があります。 ファブによって、学校の中に新しい風が生まれ、それが内から生徒と先生の気持ちを変えていけば、 外からも新しい風が吹いてきて、新しいネットワークが広がっていきます。ファブは「ものづくり」というより、 こうした社会や世界と「私」とのあいだの、関係性の変革なのだと思うのです。 ところで、高校生向けに大学生がつくったファブの教材ビデオがあります。こうやって、自分が学んだことを、次の世代に伝えていくことも、また広げていきたいですね。
講評:越智岳人
編集者・ライター/DMM.make AKIBAプロデューサー
デジファブ機材の扱いに苦戦したり、どのように指導していくか悩んでいることをfabbleに書いているレポートがいくつかありましたが、ハードウェアに関しては吸収力が子供のほうが早いので、近隣のファブ施設の人にメンタリングしてもらいながら、子供のモチベーションをキープさせていくことが先生の役割なのかなと思います。そうした観点で審査した結果、10歳にも満たない児童たちを完成まで導いたローラスは受賞に値すると思いました。こうした試行錯誤の記録を通じて、小中学生でも当たり前にデジファブ機材を触れるようになってほしいし、高校生に関しては文系の生徒でも、自らプロトタイピングができるような状況が生まれることを期待してます。
全体講評
田中浩也
ファブ3Dコンテスト2018 実行委員長
慶應義塾大学 SFC研究所 ファブ地球社会コンソーシアム 代表理事
今年で3回目となるファブ3Dコンテストは、ついにカテゴリー1から5までのすべての優秀賞が小・中・高・大学生に独占される結果となりました。「小学生の部」「高校生の部」以外の3つのカテゴリーは、社会人も参加できるルールですが、厳正な審査の末に掛け値なしでこのような結果となりました。
受賞した方々に共通していたのは「何度も繰り返しプロトタイピングしていたこと」で、これは時間をかけなければできないことです。粘り強く時間をかけて何度も反復することは、社会に出るまでの大学生までのあいだに徹底期に身体に馴染ませておくとよいことだと個人的に思っています。一部では、3Dプリンタを「TCT = Time Compression Technology (時間圧縮技術)」と呼ぶ動きがありますが、今回の結果はまったくその逆の価値観を示しているのではないかと思います。ものづくりの技術が高速化・省力化に向かえば向かうほど、それに向き合う人間が創造性を発揮するためには、むしろ時間を「かけて」繰り返し、つくっては確かめ、無駄を厭わず試行錯誤し、じゅうぶんに探索的でなければいけないということです。受賞者の作品はすべてそれを表していました。
ところで、ニール・ガーシェンフェルド「FAB(オライリージャパン刊)」に描かれたデジタル・ファブリケーションの概念が日本でも広まり始めて7年がたちますが、もともと根底に流れるFabの思想は、「これまでものづくりをしてこなかったひと(ものづくりの圏外にいる人)が、ものづくりの力を得たら、どのように現場からイノベーションが立ち上がるだろうか」というものでした。そして、そのものづくりには、IoTや電子工作も含まれます。「FAB」には、たとえば、ノルウェーの羊飼いが、センサやGPSの知識を勉強して、放牧をモニタリングするシステムを自力で開発し、自身の現場の作業を改善していく様子が描かれています(この本にいくつか描かれる事例の中で私はこれが一番好きです)。私も、こうした「ものづくりの圏外にいた人のためのFAB/IoT」という部分に関心を持って、いま、日本で看護師のためのFAB/IoTなどを研究しています。
「これまでものづくりの圏外にいた人」のなかには、当然ながら、これから社会に出ていく小・中・高・大学生も含まれます。これから大切なことは、FABやIoTの力を身につけた若い世代が、社会に出てこれからどのような仕事を「創職」(就職ではなく)していうかということです。現在社会に用意された職業メニューの中から選択するだけなら、たとえば「建築家」とか「プログラマー」とかになってしまうのでしょうが、実際にFABやIoTの力を身につけた人間は、ハードからソフトまで、3Dから2Dまで、幅広く扱えるわけで、新しい人間の能力のほうが、社会にあらかじめ用意されている職業の枠よりも大きいものになっているわけです。そうした現状の中で、FABやIoTの力を身につけた若い世代の力を、本当に社会的なものにするためには、大人の側にもやるべきことが山ほどあります。ファブ地球社会コンソーシアムでは引き続きその議論を続けていきますし、その視点から今後のファブ3Dコンテストの意義についても再検討していけたらと考えています。